2025年05月15日

Y字路はなぜ生まれるのか? : 重永瞬

『Y字路はなぜ生まれるのか?』 重永瞬

 もう実家に帰った時くらいしか新聞を読む機会がないんだけど、その書評欄で見かけて気になっていた本。「Y字路」に焦点を絞ったこだわりが何だか面白そうだと思った。

 路上を歩いてそれぞれに個性的なY字路の表情を味わい、地図をひもといてなぜそこにY字路が生まれたのかを考える。人がY字路に抱くイメージを追い、街にY字路を形成してきた人の営みを思う。

 著者の撮ったY字路の写真を見ながら、「このY字路は好き。」「こっちは何かいまいち・・・」と色んな顔を持つY字路を楽しむ。実際に現地に行って、周辺の空気や生活感も込みで体感してみたいと思うY字路もあった。
 
 ・・・のだけども、地図をもとにY字路ができる様々な過程をたどり、Y字路を含む町の成り立ちを考察する章になってくると、地図を見るセンスがからっきしの私は、だんだんと話についていけなくなり、興味がしぼんできてしまった。

 どうやら私はY字路が喚起する物語性に惹かれるんであって、地図とか地形とか路上観察っていうことにはあんまり興味ないんだな・・・ということに気づかされた、かも(苦笑)。(と同時に、そんなことに興味の薄い私でも面白く見れてしまう『ブラタモリ』ってすごいんだなってことにも気づかされた。)

 でも、散歩に出かけた近所の原っぱで、こんもり盛り上がった場所を避けるように分岐して延びる踏み分け道を見て、「あ、Y字路の赤ちゃん。」と思うくらいにはY字路のことが気になるようになってきてる。

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2025年05月03日

緑陰深きところ : 遠田潤子

『緑陰深きところ』 遠田潤子

花開萬人集
花盡一人無
但見雙黄鳥
緑陰深處呼

花開けば万人集まり 花尽くれば一人なし
ただ見る双黄鳥 緑陰深き処に呼ぶを


 遠田潤子という名前を目にすると、この作者との出会いになった短編「水鏡の虜」に感じた、身体を熱っぽく疼かせるような情念の滾りを思い出す。

 本作も深い悔恨の情に囚われつづける男の暗く燃える情念の物語だが、この深い緑の葉陰で鳴きかわす二羽の鳥のイメージがあることで、静かな安楽へ至る希望をかすかに胸に灯しながら読むことができる。

 家族を呪縛した戦争の傷跡、二人の兄弟の確執、古い雛人形の衣裳に沁みついた愛する人の血痕、桃の花の甘い香り。囚われづつけた過去に決着をつけるため、紘二郎は兄・征太郎のいる大分 日田を目指す。「今からあんたを殺しに行くよ。」

 過去への執着を象徴するような車・ワインレッドのコンテッサを手に入れて日田へと向かう紘二郎の前に現れたひょろひょろで金髪の青年・リュウ。妙な行きがかりでこのボロボロの「天使」と日田への旅を共にすることになった紘二郎。二人の旅の行くつく先は・・・

 
 旅の果て、紘二郎とリュウが歩いた日田の咸宜園を、梅林の風景をいつか見に行きたいと思った。

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2025年04月19日

読学人間 : 寺嶋良

『読学人間』 寺嶋良

 『THE FIRST SLAM DUNK』「2023 ワールドカップ」「パリ五輪」→福岡で開催されたインハイバスケ観戦〜の流れでバスケに興味を持ち始めて、今シーズンから近隣のアリーナに足を運んでB.LEAGUEの試合を観戦するようになった。といっても、どこか応援するチームがあるわけではなく、「ワールドカップや五輪で観た日本代表選手のプレイが見られるといいなぁ」くらいの軽〜い感じだった。

 今年1月10日。お正月を少しずらして帰省した広島で「広島ドラゴンフライズ」vs.「長崎ヴェルカ戦」を観戦。ちょうど帰省のタイミングで試合やってるし、故郷のチームを見てみようという気持ちもあったのだけど、ヴェルカの馬場選手や川真田選手を見たいって気持ちの方が正直大きかったんですよね、その時は。

 前半は長崎が大きくリードして終了。

 そして後半・・・

 味方選手がスティールしたボールを受けてゴールへと駆け抜ける背番号「0」。反撃の狼煙をあげる3Pシュートが諦めムードも漂い始めていたブースターの心を奮い立たせた。と、同時にその瞬間まであまり熱心なファンとは言えなかった私のハートにも火が付いた。

『寺嶋良最高!!!』
『広島ドラゴンフライズ大好きだ〜! だ〜! だ〜! だ〜!』

 (この時点で私は、寺嶋選手が怪我で長期離脱していたことすら知らなかった。その日が寺嶋選手の10ヶ月ぶりの復帰試合であったことを知ったのは試合終了後のインタビューでだ。本当に「運命の試合」だった。)

 
『「寺嶋良」とは1%の才能と49%の努力と50%の読書である。』

 『僕にとって本屋は武器庫』『本屋の武器商人としては一人前』という寺嶋選手の言葉が熱い。

 彼が本の中の言葉を「武器」にすることができるのは、幼いころから読書好きであったことはもちろん、名著に書かれた言葉の圧力に負けない、みっしりと中身の充実した悩みや迷いを持っていること、そしてプロのアスリートとして自分の身体と日々向き合っている身体感覚あってのことだと思わされる。

 この本の最後に書かれている『寺嶋良の第二章の始まり』『寺嶋良リメイク』のスタートにに立ち会えた私は幸せだ。来シーズンも『寺嶋良最高!』と叫びたい。

読学人間.jpg


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2025年04月14日

さよならに反する現象 : 乙一

『さよならに反する現象』 乙一

 気になる本を見つけたらとりあえずメモしている私の「読みたい本リスト」に入っていたのだけど、いつどこでこの本を見つけたのか、どうして読みたいと思ったのか思い出せない。読んだらなにか思い出すかと思ったけど、やっぱり思い出せない。

 最初の二編、「そしてクマになる」「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」まで読んだところで、「視野を広く持っておかないと気付かないうちにとんでもなく怖いところに迷い込んでしまうよ」とか「世の中は結局、好きか嫌いかを軸に回ってて善か悪かなんて二の次なんだよ」っていうメッセージが込められているのでは!?と思ってしまい、これは怪異譚・探偵譚に人生訓をからめた作品集か?と思ったりしたが、続く「家政婦」「フィルム」を読むとどうもそうではないような気がする。(「家政婦」は美中年作家・神宮寺先生の家で住み込み家政婦をする「私」の妄想のさらけ出しっぷりが微笑ましい。)

 心霊写真の合成が趣味の青年と写真に写りたい幽霊のお話し「悠川さんは写りたい」はホラーというにはあまりにほのぼのしていて、「ちょっと都合よすぎない?」と疑いながらもニコニコ読んでいたんだけど、オチには「ヴっ」ってなりました。これも「表に見えているものがその人のすべてじゃない」っていうメッセージなのかも。

 読み終えてみるとどれも怪異譚の姿をした「現実を生きる為のお話し」って感じだろうか。

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2025年04月02日

虚傳集 : 奥泉光

『虚傳集』 奥泉光

 数多ある剣術道場の中でもその突き詰めすぎた合理性によって幕末の江戸で異彩を放った清心館。戦国時代、印地の衆と呼ばれた投石の技術をもって業とした者たち。後世に一体の仏像も残していない謎の仏師・寶井俊慶。異端の研究に邁進した江戸学問界の徒花・薗倉瑞軒。尊攘の波に身を投じた高田諒四郎と地方の豪農の当主として維新の波を乗り越えた菅原惣左衛門〜将棋を愛する二人の友情とそれぞれの生。

 歴史に存在しないはずの事実、ありはしなかった人生が書物の中で息づきはじめる。評伝風の文体で記される文章を追っていると、いわゆる時代小説を読むのとは違った没入感でそれぞれの人物の生きた時間に思いが飛ぶ。

 こうして誰かの言葉で語られることで歴史となり、生き生きと輝いて、ひとつの物語になっていく「存在しない人生」にどっぷりと魅了されながら、頭の一方では、この世に何の痕跡も残さず、書物に書き記されることも、誰かに語られることも無くとも、確かに存在する多くの人生があるのだという当たり前のことを思い出す。なんというか・・・人が生きるということは不思議で、奥深い。 

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2025年03月22日

睦家四姉妹図 : 藤谷治

『睦家四姉妹図』 藤谷治

 横浜市戸塚区の静かな住宅地・原宿に暮らす睦家の家族。父・昭、母・八重子と貞子、夏子、陽子、恵美里の四姉妹。昭和の終わりから令和の幕開けまで。それなりの波風を立てながら「平成」の日々を暮らす一家の家族模様。

 睦家の四姉妹とはほぼ同世代。家庭環境の違いはあるけれども、私も彼女たちと同じ年ごろで同じ出来事を経験している。

 「あの頃の空気」「あの場所で話した言葉」「あの時の気持ち」に思いをやる。いつの間にか過ぎ去っていた「平成の日々」を思う時間をくれた読書だった。

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2025年03月15日

多頭獣の話 : 上田岳弘

『多頭獣の話』 上田岳弘

 久しぶりに物語にハマる感覚を味わえた。このところ本を読む体力も集中力も落ちていく一方で、夢中になって一気読みなんてことはできなくなってたんだけど、この『多頭獣の話』は読み始めてすぐに物語に呑まれる感覚があってページがどんどん進んだ。(と言っても、さすがに睡眠時間削って一晩で読み終えるってのは無理だったけど。)

 IT企業で働く主人公・僕と会社を辞めてYouTuberになった後輩。視聴者である僕の目の前で再生されるYouTube動画。割と日常的な事柄でもあろうこれらの事が、何か非日常的な不穏なものをはらんで見えるのは、作者の物語るテクニックによるものなんだろうな。「僕」の目にYouTuberロボットの動画に写る現実が『我々が生きる世界とは微妙に位相がずれたもののように見えた』のと似たような感覚を、この小説を読むことで私たちは味わわされているのだろう。

 現代の黙示録か? 一人の男の暴走する思い込みか? 不穏な空気プンプンで進んできた物語はしかし、終盤で急に失速する。現実とは『わずかに物質の組成が違うよう』だった世界が現実と同じものへと戻っていく。それはYouTuberロボットの失敗のせいなのか? YouTuberロボットの失敗ってつまるところ何だったのか?

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2025年03月06日

夜の床屋 : 沢村浩輔

『夜の床屋』 沢村浩輔

 人気のない無人駅の駅前。深夜にただ一軒灯りを灯す理髪店。灯りに吸い寄せられる蛾みたいに、この不思議なシチュエーションに引き寄せられてページをめくる。

 奇妙な出来事に遭遇しがちな大学生・佐倉。この床屋の謎につづいて、部屋の住人が寝ているその室内から絨毯だけが無くなるという不可解な事件、近所の小学生が遭遇したというドッペルゲンガー捜しの顛末、そして、近々売りに出されるという友人の古い別荘での宝探しと、佐倉は友人たちとともにこの奇妙な出来事に首をつっこんでいくのだが・・・。

 佐倉とその友人たちの身の回りで起こるちょっと奇妙な「日常の謎」のお話しとは言いながら、その「日常」や佐倉たちのキャラクター自体ががちょっと浮世離れしているというか、現実臭が薄いというか、幻想味感じさせるというか。

 そういうほんのりな幻想味を好ましく感じながら読んではいたんだけども、事件の真相のように語られてるものが、「でも、それってあなた個人の考察に過ぎませんよね。」って感じだったり、「そんな無理が通るなら、何でもアリじゃないか?!」とか、「結構な凶悪事件起きてるっぽいけど、そういうスタンスで大丈夫なのかな?」とか、「ドッペルゲンガー出てくる必要性どこにあった?」とか、半分読み終えたあたりで、ちょっと正直、釈然としないって感じが大きくなってくる。

 「でもこれ連作ってなってるし、きっと最後まで読んだら驚きともにすべてがつながっていく結末がやってくるんだろう。」との期待を込めて読み進めていたんだけども・・・。私としては「ちょっと、そりゃないよ〜〜〜」な結末だったな。

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2025年02月25日

歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』

 期待以上に昂る舞台でした。幸四郎さんと松也さんダブルキャストのライ、右近さんのキンタ、染五郎さんのシュテン、新悟さんのシキブ・・・楽しみなとこは沢山あったその中で、何より目を奪われたのが時蔵さんのツナ。

 時蔵さんといえばザ・古典のイメージがあったのだけど、オボロの時も含めて、立ち回りも踊りも、台詞も所作も、古典の歌舞伎とは違ったリズムに乗っていながら、動きの端々のきまり具合、ふとした立ち姿の美しさには歌舞伎ならではのものがあって実に艶やか。

 18年前、「『いのうえ歌舞伎』と謳う舞台があり、たいそう人気らしい」という評判を耳にして観に行った劇団☆新感線の『朧の森に棲む鬼』。評判に違わず豪華で妖しい魅力に満ちた舞台だったんだけど、歌舞伎以外の舞台ほぼ初体験だった私には、勇ましい将軍や戦士を演じる女優さんたちの低く、厳めしく作った声がどうも肌に合わなかった。その点、歌舞伎NEXTとして上演されるにあたって、そういう役を女方が演じることは私には嬉しいことだったのだけど、そういうの抜きにしても時蔵さんのツナは美しかった。

時蔵ツナ2.jpg


 検非違使の長を務めエイアン四天王にも数えられる女傑。強く凛々しく冷静に鎧った武人の顔と、鎧に隠した燃えるように情熱的な女の顔。そして全てを剝ぎ取られて見せる弱さ。すべてをひっくるめて「美しいツナ」を演じるために、もの凄いばかりの女方の技術が駆使されているのだろうなぁ。

 右近さんのキンタが花道をダッシュで登場。その姿が目に入った瞬間に舞台全体の光量が上がった感じがして胸が勝手に高鳴った。登場しただけで客席の温度がぐん!と上がる、そういう役者になったんだなぁ、右近さん。

 オーエ国の将・シュテンを演じる染五郎さん、立ち廻りは流石のキレ。睫毛のけぶる美少年の面影も残しながら、昨年、乱歩歌舞伎『人間豹』の恩田役で観たときよりも一回りも二回りも線の太い役者になられたなぁと驚く。『人間豹』では悪の魅力を存分に振り撒いてくれた染五郎さん、荒々しくも美しいシュテン役もいいけれど、ご本人の言葉通りいずれはライを演じてさらに大輪の悪の華を咲かせてほしい。

 新悟さんのいろんな可愛さが大爆発したシキブ。可愛いところも、ドス黒いところも、浅はかなとこも、哀れなところも、ぜんぶがシキブの魅力。もっと! 新悟さんの、シキブのいろんないいとこもっと見たいよ〜

 猿弥さんのマダレに彌十郎さんのイチノオオキミ。元々お二人への当て書きだったんじゃないかと思わせるほどのハマり方。イッチーはほぼシキブと戯れているだけなんだけども、それだけでこの大王の表には出す機会のない聡明さや、彼なりのやり方で国や家臣のことを思っているその心が滲んでくる。

 猿弥さんのマダレ・・・古田新太さんが演じたマダレはもう少し悪人味が強くて、妹を助けるのも情にかられてというよりもライのやり口への反発からくる気紛れとも感じられるような味があったのに対して、猿弥さんのマダレは悪に染まってはいるけれど、根っこには情の篤さと彼なりの道理を貫く心が生きている。それぞれの役者さんの味がでているなぁと思うマダレでした。

 そして、真っ赤な嘘で舞台を染め続けたライ。「それはさすがにやりすぎだ」と目を背けたくなるような所業もあったけれども、悪辣さが増すごとにどんどんと魅力を増していく、その行きつく先を固唾をのんで見つめずにはいられない。切れ味の松也さん、色気の幸四郎さん。朧の森の魔物すら呑み喰って鬼となり宙を飛ぶ姿にはひれ伏すしかなかった。

 ご馳走さまでございました〜〜〜


追記・・・ラジョウの街の場面も女方さんの魅力爆発だったと思うのです。一様にスラリとした女優さんたちではなく、年齢も顔つき、体つきも様々な女方が歌い、飲み、踊ることでラジョウの街の吹き溜まり感、生命力のごった煮感が増したと思うのです。大好きな場面です。


2007年2月大阪松竹座 劇団☆新感線『朧の森に棲む鬼』感想
・・・http://bitter-sweet-pea.seesaa.net/article/388358650.html
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2025年02月13日

KABUKI NIGHT 〜あつまれ朧の森 博多で歌舞伎を鬼推しナイト〜 

 博多座で上演中の歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』のトークイベントに行ってきました〜! 1時間あまりの楽しいひと時。せっかく撮影タイムがあったのに私の腕がないせいできれいに撮れたのが一枚もない〜 なので、写真のアップはなしです。

 出演者の皆さんへのアンケートを基にしたトークコーナー。アンケートになんて書いたか忘れてる人続出なのはご愛嬌として・・・『朧〜』で自分のお役以外に演じてみたい役について・・・ うわぁ! それ全部マジで観たいですから〜〜〜〜

 染五郎さんのライはね、そりゃ、当然アリとして(もう、それ何年後にやるかってだけの話でしょ。お父様うかうかしてられない。)、松也さんのキンタ、うぉ〜 それもアリだ! 新悟さん・右近さんのツナ、見た過ぎるぅぅぅ〜〜〜。宗之助さんのシキブ、くぅっ〜これもゾクゾクする。亀蔵さんのマダレは、うん、ハマるな。彌十郎さんのライは・・・どんなライになるのか興味をそそられます。ちょっと演出を(脚本も?)変えてでも実現していただくことはできないだろうか? そ!し!て! 美しき女方・新悟さんと時蔵さん演じるライ! これが観られたら私の心臓がもぉ! 座席にじっと座ってられる自信がない。

 ↑の配役が実現するときを夢見て、しばらくは妄想で楽しもう。

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2025年02月12日

鬼がいる

博多座に歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』を観に行くと、劇場のそこここに鬼が潜んでた。

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博多座さんのこういう愛のある仕掛け大好き。
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2025年02月08日

白昼夢の森の少女 : 恒川光太郎

『白昼夢の森の少女』 恒川光太郎

 きっと多くの読者がそうであるように、恒川光太郎氏の描く幻想的な異界の有り様には「厳しさ」「怖ろしさ」とともに「懐かしさ」を感じてきた一人なんだけども、今回感じたのは「懐かしさ」を通り越して「それ、知ってる」っていう感覚だった。

 夏の夜に音もなく山々をよぎる大入道。町の上空に浮かぶ巨大な船。重なり合った布団の中からするりと抜け出ていくもの。

 「それ、私も見たことあるわ」っていう感覚。「夢だったんだろう」ということにしているぼんやりした昔の記憶の中から浮かんでくる古いフィルムに写ったような映像。

 「怖さ」ということでは「傀儡の路地」が一番だった。「ドールジェンヌ」は超自然の存在かもしれんけど、割と遭遇するからね。

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2025年01月25日

狐花 葉不見冥府路行 : 京極夏彦

『狐花 葉不見冥府路行』 京極夏彦

 作事奉行上月監物の一人娘・雪乃の行く先々に姿を見せる美貌の若衆。雪乃はすっかり魅入られ心奪われてしまうが、その若衆の姿を見た雪乃付きの女中・お葉は怖れ慄き病みついてしまう。

 紅い彼岸花の柄を着物に染め付けた美しい若衆の話を聞かされ心穏やかでない女が他にも二人。材木問屋近江屋の娘・登紀と口入屋辰巳屋の娘・実祢。その若衆〜萩之介はお葉、登紀、実祢の三人が手にかけて殺し、葛籠に詰めて隠亡堀に沈めたのだった。

 雪乃の前に現れたのは何者なのか? 萩之介の亡霊か? この世にいないはずの萩之介はなぜ現れるのか?

 萩之介を殺したお葉、登紀、実祢。そして決して口外できぬ「あること」を秘める上月監物と、登紀と実祢の父親である近江屋、辰巳屋。人の心に巣食った怯えが惨劇を引き起こす。からまる謎を解き、災いを祓うため、”ありとあらゆるまやかしを暴く”という武蔵晴明神社宮守・中禪寺洲齋が呼び出される。

 
 京極さんの小説としてはあっさり目。だが、紅く咲く彼岸花の色彩、イメージが鮮やかだ。

 彼岸花の数々の呼び名になぞらえて女たち、男たちの過去と運命、からみあう因縁が語られる。紅く咲く彼岸花の色彩に夥しく流された血と悲しみが注がれていく。

 歌舞伎の舞台ではどのように見せてくれたのか。観に行けなかったのが残念だ。シネマ歌舞伎にはならないのかな?

 上月監物は胸が悪くなるほどの極悪人だけれども、彼もやはり悲しい人だったのだと・・・勘九郎さんが演じたから贔屓目でっていうわけじゃないのだけど、そんな風に思う。

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2025年01月17日

小川洋子と読む 内田百閭Aンソロジー

『小川洋子と読む 内田百閭Aンソロジー』 内田百閨^小川洋子編

 冒頭に置かれた「旅愁」が何というかもう最強の掴みを見せてくれるのだ。この時点でもう完全に私の魂は百關謳カと小川洋子氏に引っこ抜かれてしまった。

 旅行用に買ったずぼんが寝台車でもぞもぞするうちビリビリと二尺ばかりも裂けてしまった。仕方なく浴衣に革帯、パナマ帽に編上げ靴というスタイルで北海道に降り立つ先生。さて旅の顛末は・・・といったところなのだけども、編者の言葉どおり「たとえタイトルから何かを予想したとしても、ことごとく覆される」。旅先での親愛なる人たちとの一コマ、その想い出。他愛ない可笑しみと、ほんのり漂う「愁」、焼玉蜀黍の温みと香りを間近に感じるようなしみじみした気持ちを味わいながら、心の中ではずっと「ズボンはえ!?」のツッコミを噛み殺しているのだ。

 小川洋子氏の編む内田百閧フアンソロジー。現実の境界を危うくする百關謳カの剛腕にゴイーンと一撃されて頭クラクラ足元ふらふらしてるとこに追い打ちをかけるように、口を開いた深淵に向かって小川洋子氏がトンっと背中を押してくる。そんな感じを期待して手に取った。

 この編者のコメントによる追い打ち効果は、牛や鳥や栗鼠や猫や蜥蜴・・・生き物が登場する作品で際立つ。生き物、生命に対する視線、感性にざわりとさせられる。

 「柳撿挍の小閑」は盲目の柳撿挍の感じる世界が瑞々しく鮮やか。もどかしくも様々にめぐる柳撿挍の心の内に思いを寄せずにはいられない。

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2025年01月13日

主従は三世

 年末年始を少し外して実家に帰省してきた。

 実家からの帰途、最寄りの駅までぶらぶら歩きながら、三年前に亡くなった母の事や一人暮らしをする父のことを考えるともなく考えていると、ふと「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世」っていう言葉が浮かんできて、いつの間にか頭の中は親の事からそっちの言葉のことに移ってた。

 「親子は一世」はわかる。親子関係に「ガチャ」という言葉が出てくるのを見ても、「うん、まぁ・・・何かわからなくはない」と思う。

 「夫婦は二世」・・・これも、まあ、わかる。

 「主従は三世」重くないか? 前世から、そして来世まで繋がった縁。これがフィクションの世界の話であれば、何だかロマンを感じてしまうんだが、封建時代の話だとしても現実レベルで大真面目にこれ言ってる人いたら怖いなぁ、重いなぁ。ちょっと待て、この「三世」って本当に前世とか来世とかの「世」なのか? 生まれかわっても、また生まれかわってもお主と家来の縁は切れない? 何かもう逆に嘘っぽいというか、もはや呪いというか。例えばね〜『お前に何かあっても孫の代まで必ず召し抱えて面倒見る。』『殿が世を去っても、その子、孫を盛り立てて変わらぬ心でお仕えします。』ならすごく現実的に納得できるんだがな。そうだ! そういうことだよ! うん、「主従は三世」に限っては「三世代」って意味だ、きっと。それならすっきりと腹に落ちるじゃん。

 そんなことを考えながら車窓に瀬戸内海の見える電車にゴトゴト揺られてました。
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2024年12月29日

年末の一日・浅草公園 他十七篇 : 芥川竜之介

『年末の一日・浅草公園 他十七篇』 芥川竜之介

 やはり竜之介、優しいんである。

 以前、ちくま文庫の作品集を読んだときにも作中の人物たちに注がれる竜之介の細やかな観察眼や控えめな同情にほろりとさせられたのだが、日々の暮らしのなかで人がふと見せる表情、心の揺れを見つめ、思いやり、掬い上げる竜之介の視線は優しい。

 しかし、彼らと同じ「生活」の中にザンブと身を沈めてしまうにはあまりに知的すぎるのか、優しい視線の外側にもう一つの視線があるのを感じるのだ。

 何だか森見登美彦を思い浮かべて微笑んでしまった「お辞儀」。哀しさと美しさを湛えた大人の童話のような「詩集」。時とともに移ろう人の暮らしの盛衰、荒れ行く庭や廃墟に刻まれた生の痕跡が放つ静かな熱にあてられたような気持ちになる「庭」「ピアノ」「悠々荘」。そして、新聞記者のK君と漱石のお墓に参った帰りに男が引く箱車を一心に押して坂を上る「僕」の姿を、坂の上から吹き降ろす風を、日の暮れていくその景色を思わずにはいられない「年末の一日」。心が静かにざわつく。

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2024年12月20日

進撃の巨人という神話

『進撃の巨人という神話』

 社会学者、精神科医、漫画研究者、漫画編集者、フリーライター、暗黒批評家・・・8人の執筆者がそれぞれの視点から漫画『進撃の巨人』を語る。

 『進撃の巨人』のコミックスはレンタルも交えて全巻読んだのだけど、私はどちらかというとアニメ視聴の方がメインで、連載を追いかけて原作をじっくりむさぼり読んだわけじゃない。ので、劇場版『進撃の巨人』完結編を観たこのタイミングで、改めて漫画『進撃の巨人』がどんな風に読まれていたのか興味が出た。

 作者・諌山創の「絵の上手さ」の質がどういうものであるのか。キャラクターやストーリーではなく作品の「世界観」にこそ作者の愛とこだわりが最も注ぎ込まれていること。『進撃の巨人』の世界観やストーリーはどのように分析、理解できるのか・・・

 漫画読みの巧者、学識豊富な専門家の言葉から『進撃の巨人』がどういう漫画だったのか知ることはできるのだけど、批評・評論というよりも、もう少しライトなエッセイという感じ。『進撃の巨人』という素材に自分の思いの丈をぶち込んだ、何というか・・・二次創作作品を読んでる感触に近いものもあったり・・・


宮台真司 「『進撃の巨人』は物語ではなく神話である」
斎藤環  「高度に発達した厨二病はドストエフスキーと区別がつかない」
藤本由香里「ヒューマニズムの外へ」
島田一志 「笑う巨人はなぜ怖い」
成馬零市 「巨人に対して抱くアンビバレントな感情の正体」
鈴木涼美 「最もファンタスティックなのは何か」
後藤護  「水晶の官能、貝殻の記憶」
しげる  「立体起動装置というハッタリと近代兵器というリアル」
渡邉大輔x杉本穂高x倉田雅弘 『進撃の巨人』座談会


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2024年12月14日

決戦! 忠臣蔵

『決戦! 忠臣蔵』

 今年はとにかくゴリゴリの「討入り!」が読みたかった。史実云々は脇に置いといて、どフィクションでいいから、忠義の! 侍たちの! 討ち入りが! 読みたかった!

 シリーズ名に『決戦!』とあるぐらいだから、てっきり吉良vs.赤穂浪士のヒリヒリする駆け引きに熱いバトル! 艱難辛苦の末の命を賭した討入りが! 美しき義挙が! 読めるんじゃないかと思ったの! ・・・しかしながら、そういった意味じゃあ全くの選択ミスだった。下調べをまったくしなかった私が悪いのだけど。

 収録された七作品のうち、浪士の妻を描いたものが二編、吉良方・清水一学のお話しが一編、泉岳寺の雲水視点のものが一編、超自然の存在が絡むもの二編。何というか切り口が斜めのものがほとんどで、大石内蔵助なり、浪士の一人なりをがっつり主役として主君の仇討を胸に秘める浪士たちのドラマを描いたのは葉室麟の「鬼の影」一編だけだった(これも、どストレートというよりはかなり捻られた作品であるけれども。)

 池宮彰一郎氏の『忠臣蔵夜咄』にあったように、『忠臣蔵』の物語はもうすっかり書き尽くされてしまったのか。忠義ってのはもう流行らないのか。まぁ、赤穂浪士の討入ってちょっと冷静になってみたら結構理不尽な暴力沙汰だもんなぁ・・・。共感するの難しいよなぁ、普通に考えたら。って、こういう風に冷静になりたくなかったの! 今年は! 浪士たちの苦難の日々に、雪を踏みしめ吉良邸へと向かう姿に、本懐を遂げた朝の景色に・・・気持ちよく滂沱の涙を流したかったの。ああ・・・。

 まぁ、今年は大きく空振りをしてしまったんだけど、収録作の中では朝井まかての「妻の一分」が妙に後をひいた。読み始めは犬を語り手にするあたり「何か奇を衒ってて嫌だなぁ」と思ったんだけど、読み進めるうち、赤穂藩国家老の妻としてはちょっと思慮深さの足りないのほほんとした人に見えていたりくという女性の心の底知れなさが現れてきて、不思議な迫力があった。


【収録作】
「鬼の影」 葉室麟
「妻の一分」 浅井まかて
「首無し幽霊」夢枕獏
「冥土の契り」 長浦京
「雪の橋」 梶よう子
「与五郎の妻」 諸田玲子
「笹の雪」 山本一力

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2024年12月06日

忠臣蔵夜咄 : 池宮彰一郎

『忠臣蔵夜咄』 池宮彰一郎

 十二月になったので『忠臣蔵』ものを読む。

 『四十七人の刺客』『最後の忠臣蔵』の作者である池宮彰一郎氏が自らの作品執筆や映画化について語ったエッセイや対談集。

 『忠臣蔵』を題材にした小説を書かれた作家たちが口をそろえて言う「『忠臣蔵』はもう書き尽くされちゃってる」。それでも現代の読者に楽しんでもらえる『忠臣蔵』を書くには・・・。

 小説家の想像力、史料に書かれた(あるいは書かれていない)どの部分を膨らませていけば小説として魅力的になるかをかぎ分ける嗅覚。そういったところに小説家、作品の個性が現れ、作品を面白くするのだなぁと思わされる。

 『忠臣蔵』好きと言いながら四十七士の一人一人を記憶しているわけではない私にとって巻末の銘々伝はありがたい。

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posted by sweet_pea at 20:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 忠臣蔵・赤穂浪士もの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月22日

『八犬伝』

『八犬伝』 監督:曽利文彦

 仁義礼智忠信孝悌の珠を持つ不思議な因縁で結ばれた八犬士の運命の戦いを描く『八犬伝』の物語と、その物語を生み出す滝沢馬琴の人生。「虚」と「実」の物語をあざなうように描く。

 中途半端感が否めないとの感想を目にすることもあり、ちょっと期待値は低めで観に行ったのだけど、滝沢馬琴を演じる役所広司さん、妻・お百を演じる寺島しのぶさんの演技が素晴らしく、滝沢馬琴とその家族の物語をじんわりと味わえる良い映画だった。「八犬伝」パートは、ストーリーの構成上ダイジェスト的なものになっているので、やっぱり少し物足らなさが残るが、華やかな映像で、「『八犬伝』読んでみようかしらん」と思わせるには充分。

 偏屈な大先生の顔、恐妻家の顔、厳格で独善的な家長の顔、子を思う親の顔、書物を積み上げた書斎に立て籠もる孤独な王の顔、その書斎から壮大な物語を生み出す偉大な物語作家の顔、もの思う一人の人としての顔・・・役所さんの演技から馬琴の色んな顔が滲みだしてくる。(それを切り取るカメラワークも良いのだと思う。)

 その馬琴に非常にこんがらがった感情を抱くお百〜寺島しのぶさんの芝居もすごくいい。がさつな言動の裏にある愛情深さや、寂しさや、口惜しさや、劣等感や、もどかしさ・・・と言うと陳腐になってしまうので、こんがらがった気持ち・・・と言うしかないんだけど、そのこんがらがったものを「ぶわっ」とぶつけてきてくれる。

 磯村勇斗さん演じる馬琴の息子・鎮五郎。親の期待に過剰適応した姿が痛々しい。親思いの良い子なだけにお百さんはたまらなかったろう。着物の着こなしはもうちょっとどうにかならなかったかなぁ・・・。
 
 中村獅童さん、尾上右近さんがそれぞれ七代目團十郎、五代目菊五郎として演じられる作中劇「四谷怪談」もちょっとしたお楽しみ。滝沢馬琴と鶴屋南北の「物語」をめぐる問答。歌舞伎の歴史に名を残す大南北、さすがの凄みでした。
posted by sweet_pea at 21:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする