今回の山陰行きの旅の友。のんびり走る列車の中で、車窓の海、山、田圃を眺めたり、居眠りしたりの合間に読んだ。
早起きはしないから出発は昼過ぎが良い。席は一等が良いが、三等でもかまわない。旅の見送りに来てもらっては困る。皆がこぞって行くような観光名所には行ってやるものかと思う。山のような理屈と我儘を並べ上げ、御供に「ヒマラヤ山系」君を連れ、人に借りたお金で悠々と目的も用事もない阿房列車の旅に出る百けん先生。
何をしても良い、何をしなくても良い、別に着いた先で観光なんかしなくたって良い、ただ列車に乗っているだけの時間を楽しむことなら、私だって負けちゃいないぜ!と思いながら読む。
我儘の限りを尽くしているように見えて、同行の山系君の腹具合を考えてやったり、自分の長年の愛読者である山系君にゆかりの百間土手を見てもらおうと思ったりと、先生、可愛いところがある。
「おい山系君」と呼んだが曖昧な返事しかしない。
「眠くて駄目かな」
「何です。眠かありませんよ」
「すぐ百間川の鉄橋なんだけれどね」
「はあ」
「そら、ここなんだよ」
「はあ」
見送り無用と言っておいても、毎回丁寧な見送りを受ける。各駅では駅長さんや助役さんがあれこれと世話を焼いてくれる、着いた先では各地の名士のお出迎えを受ける。「ヒマラヤ山系」君はどこまでも御供してくれる。何か知らんが愛されていて、そういう好意を鷹揚に受けることができる上等な人だったのだなぁ。
そして百けん先生、無目的な列車の旅の合間にシュールな話で読者を煙に巻くのである。
山系が隣からこんな事を云いだした。
「三人で宿屋へ泊りましてね」
三十円の代金を三人で十円ずつ出して支払った。サービスで五円まけてくれたうちの二円を女中がごまかして、三円だけ返してきた。一人に一円ずつ戻ってきた計算だから、一人分の負担は九円。
「九円ずつ三人出したから三九、二十七円に女中が二円棒先を切ったので〆て二十九円、一円足りないじゃあありませんか」
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