不満足な現実に甘んじることを拒みタフに戦い続け、幾何かの成果を出してきた研究者サマンサ。余命半年を告げられた彼女は、死病にとりつかれた自らの肉体という現実に挑み、抗い、抗いきれずに悶え苦しむ。「納得のいかない現実」をあくまでも抵抗すべきものと考えるサマンサの戦いと苦悶が執拗に描かれ続ける。
以前観た映画『禅−ZEN』の感想にも書いたのだけど、「ああなりたい」「こうありたい」と願い、現実をより良いものにしようと努力することは人間の美しい心のありようであり、輝かしい姿ではあるけれども、その願いに囚われて「自分の思ったようなものでない現実」を拒絶することしかできないというのは人の心の暗黒面でもある。
・・・そのように私には思われるから、自分の満足いかないものには徹底的に抗い、打ち負かそうとするサマンサの姿には反発しか感じなかった。
・・・しかし、欲を捨て、抵抗することをあきらめ、現実をありのままに受け入れることは、上手く死ぬための方法であって、「よく生きる」ということではない・・・とは思う(同時に「人間ってよく生きなきゃいけないのか?とも思う。)。

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