2025年02月08日

白昼夢の森の少女 : 恒川光太郎

『白昼夢の森の少女』 恒川光太郎

 きっと多くの読者がそうであるように、恒川光太郎氏の描く幻想的な異界の有り様には「厳しさ」「怖ろしさ」とともに「懐かしさ」を感じてきた一人なんだけども、今回感じたのは「懐かしさ」を通り越して「それ、知ってる」っていう感覚だった。

 夏の夜に音もなく山々をよぎる大入道。町の上空に浮かぶ巨大な船。重なり合った布団の中からするりと抜け出ていくもの。

 「それ、私も見たことあるわ」っていう感覚。「夢だったんだろう」ということにしているぼんやりした昔の記憶の中から浮かんでくる古いフィルムに写ったような映像。

 「怖さ」ということでは「傀儡の路地」が一番だった。「ドールジェンヌ」は超自然の存在かもしれんけど、割と遭遇するからね。

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2023年09月30日

金色の獣、彼方に向かう : 恒川光太郎

『金色の獣、彼方に向かう』 恒川光太郎

 恒川光太郎の語る怪異はいつも私の予想を裏切り、越えてくる。今作に語られる「神」も、私のイメージする神というものの姿とは何か異質なものだった。

 蒙古の襲来とともにこの国に渡って来た異神。神の力と繋がる金色の獣。人々の虐殺から逃れ、人々を虐殺し、山中に紛れ潜んで今も息づく神の力。

 金色の不思議な獣に纏わる怪異譚。神の力と人の世が出あうところに生まれるひずみ。それは人知を超えた自然現象として、超常的な知覚として人の前に現れる。

 そのひずみに触れてしまったもの、そのひずみと共に生きるもの。彼らがたどり着いた先は何処だったのか?


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2016年09月23日

雷の季節の終わりに : 恒川光太郎

『雷の季節の終わりに』 恒川光太郎

 恒川光太郎の描く世界に触れると、いつもどこか傷つけられたような気持ちになる。だが、その傷は必ずしも不快なものではなくて、むしろ切なく懐かしい。

 この世の地図からは隠された地「穏(オン)」 〜 春夏秋冬の他にもう一つ、雷の季節を持つ世界。雷の季節に起こる不思議は魔物の仕業。公然と語られることはない「穏」の闇。風の魔物「風わいわい」憑きの少年・賢也にふりかかる数奇な出来事と、その残酷な運命を生き延びた少年の物語。

 賢也少年は残酷な異界を生き延びた。しかし、彼の進んだ道は彼の意志や力によって拓けたものではない。圧倒的な力はいつも世界の方にあって、少年は世界の巡り合わせの中でいくつかの選択を強いられたに過ぎない。

 旅の終わりはどこか虚ろだ。異界を行く賢也と共にあったもの・・・風にのって様々な生を渡る不死の鳥〜呪いであり祝福でもある「風わいわい」も去った。そして通り抜けてきた異界は怖ろしくも懐かしい。




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2015年05月31日

金色機械 : 恒川光太郎

『金色機械』 恒川光太郎

 人の吐く嘘と人の発する殺気が目に見える男と触れるだけで人の命を消すことのできる手を持った女の対面の場面で幕が開く。

 男・熊悟朗と女・遥香の過去へと話は遡りつつ、「鬼御殿」と呼ばれる山中の要塞を根城とする山賊たちやそこに攫われてきた女たち、「鬼御殿」と共存する里の人々、戦国の世に不思議な力を持って自治・独立を守ってきた一族、少年の頃に犯した流民斬りの罪を背負って生きる同心らの数奇に絡みあう運命が語られる。

 物語のベースは主に江戸中期を舞台とした不思議譚、伝奇ものといった風情なんだけど、絡みあう運命の節目節目に、私にはC-3POの姿でしかイメージできない「金色様」と呼ばれるものが現れる。和風の、時代物の物語世界の中に、しれっと書き込まれたC-3PO。何だ?!この異様さ、不条理感。うははははは・・・・ゾクゾクする。

 きれいごとではすまない人の荒々しく力強い生の営みの物語。その中で「金色様」という異様・異質な存在の生み出すゾクゾク感が格別だった。




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2014年04月01日

竜が最後に帰る場所 : 恒川光太郎

『竜が最後に帰る場所』 恒川光太郎

 『夜市 』に収録されていた「風の古道」を読んで以来、恒川光太郎氏の描く異界の厳格さにざっくり傷つけられながらも惹きつけられずにいられない。この世の意味や価値とは無関係な、ただ純粋にこの世とは異なる理で運行される世界の物語に戸惑い、読後に残る何とも言えぬ不思議な感触をもてあます。

 この世の外にではなく、人の心の内に在る異界を見るような「風を放つ」「迷走のオルネラ」。冬の夜、闇の中から忍び寄ってくる微かな気配とざわめきが妙に生々しく、懐かしさに似た気持ちを呼び起こす「夜行の冬」。人間とはスケール感の異なる生命の存在を思わせる「竜が最後に帰る場所」

 それぞれに魅力的なファンタジーであったり、不思議な手触りの幻想譚であったが、この4編についてはまだ私の想像力・・・というか、物語を読むという想定の範囲内で対応できた。しかし、世の中に稀に発生する奇異な存在=「偽装集合体」と、それを「解放」する力を持つ青年の物語〜「鸚鵡幻想曲」は、とても鮮やかな視覚的イメージと、どこかおとぎ話めいたのどかさと、日常を破壊する恐ろしい理不尽さで、何を拠りどころに立てば良いのかわからない驚異のただ中に私を放り出してくれた。




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2009年08月21日

草祭 : 恒川光太郎

「草祭」 恒川光太郎

 団地の奥の用水路の先に現れる見知らぬ野原。中庭から迷路のように繋がる古い家々。屋根の上の獅子舞。打ち棄てられた線路の先の民家。朧な町。ふと視界を横切る姿の曖昧な獣。

 『わけがわからないけど、少し心魅かれる』不思議なもの、この世の外にある何ものかを隠した土地・美奥。美奥に時折姿を現すこの世の外のモノは、いつもの見慣れた世界と緩やかに繋がっている。複雑なバランスの上に立ち、互いに微かに影響しあうこの世の日常と異界のできごと。


 どこか懐かしく慕わしげな様子をした異界の、しかし徹底した厳格さ、非情さ、人間界との無縁さが恒川光太郎の魅力だと思っていた。だが、「草祭」では、異界が(そこで起こることがどれほど不可思議で怖ろしいことであろうと)人間に寄り添うものになってしまって、少しだけ、何だか・・・違和感というか・・・がっかり・・・した。

 
 それでも・・・「夜市」「風の古道」に比べるとやや薄まってはいるが、恒川光太郎の描く異界の香気は魅惑的だ。これからも吸い寄せられてやまないだろう。 

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2008年03月26日

秋の牢獄 : 恒川光太郎

「秋の牢獄」 恒川光太郎

 日常を踏み外してしまった先の異世界。その異世界に捕まった人たちの異様な体験、苦悩、恐怖とも高揚感とも言えぬ心のあり様・・・。ストーリーにはまっていくうち、無意識に求め始めているラストでのカタルシス。・・・こちらの、そういう意識していなかったところでの欲求はことごとく裏切られる。このカタルシスの得られないモヤモヤ加減が恒川光太郎の魅力だなぁ。


 際限なく繰り返す11月7日に閉じ込められた人たちの苦闘と、それでもそれなりに過ごす日々『秋の牢獄』は、自分の力と思惑の及ばない世界でも、仲間を作り、考え、悲しみ、楽しみを見つけ、感情を揺らめかせる人たちの姿と、それとは全く関係無く自らのルールを刻む異界との対比が痛い。


 日本各地を移動しながら、ある場所に決められた時間にだけ現れる「家」。神域のようなその「家」に取りこまれた青年の話『神家没落』は、その穏やかな青年の「家」での不思議で静かな体験が、グルリと醜悪なものに姿を変える時の嫌ぁな味わいにざっくりと傷つけられる。


 描いた幻を現実として見せることのできる能力を持った少女・リオの数奇でグロテスクな境遇を語る『幻は夜に成長する』は、額面どおりに読んでも、やるせなさと膨らんでいく恐怖に満ちた話なのだが、“やはりこれは、リオの心の中だけの闇の物語なのではないか?”とも読めて怖ろしい。

 
 現実から甘ったるさを削り取ったような非情な異界を描きながら、その情景は日常からこぼれたものを、ふと虜にするような趣がある。切ないような、離れがたいような空気を持っていながら、一時だけの幻でも、優しいファンタジーでもない恒川光太郎の描く異界の厳格さは、ざっくりと私を傷つける。

 その“傷つけられた感じ”が忘れられなくて、私は恒川光太郎の新作を心待ちにする・・・そういうことになりそうだなぁ。

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2007年05月05日

風の古道 : 恒川光太郎

「風の古道」 恒川光太郎

 「夜市」と同じく、異界に踏み込んでしまった少年のお話ですが、「夜市」よりもさらに不思議な・・・、この結末を何処にどう収めればいいのか?という気持になる、何とも言えない読後感。

 十二歳の夏の日、ある少年が親友と共に、この世とは別に存在する秘密の道−古道を旅し、元の世界に帰ってくるまでの出来事。

 〜こう書くと、よくある「少年の冒険と成長の物語」を思い浮かべてしまいそうになるけど、これはまったくそんな冒険の物語ではない。

 古道を旅する少年を、怪異や事件や困難が襲う 〜数ある冒険譚の少年達が経験するのと同じように。異界で途方に暮れる少年に味方してくれるものも現れる。しかし、この物語が所謂少年の冒険譚と異なるのは、少年が経験する古道での出来事が、“少年の為に”“少年を中心に”起こっているのではないという事。少年の存在に関係なく、古道ではいろいろな出来事があり、少年は偶然その出来事の一端に行き当たっただけ・・・。

 冒険譚の少年達が、降りかかってくる事件の中心にあり、それによって良くも悪くも変化していくのに対して、古道を旅する少年には、そんな変化のきっかけは与えられない。少年側の事情は、古道の大きな営みに対してあまりにちっぽけで相手にもされない。

 少年に何の変化ももたらさないまま、少年の意志ではなく、どちらかというと古道の世界の都合で、少年の旅は終わる。この旅が後年大きなトラウマとなって少年の心に残らなければ良いが・・・



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2007年05月04日

夜市 : 恒川光太郎

「夜市」 恒川光太郎(第12回日本ホラー小説大賞受賞作)

 ある日、ある時、この世のどこかに現れてひっそりと開かれる「夜市」。いくつもの世界につながり、この世ならぬものたちが、ありとあらゆるものを売り買いするその市に迷い込んだ一夜のお話。

 高校時代の同級生・裕司に誘われ、何も知らないまま「夜市」に連れて行かれた大学生・いずみ。

 「夜市」ではありとあらゆるものが売られているが、そこで何も買わない者、何も欲しいものが見つからない者は「夜市」から出ることが出来ず、「夜市」の一部になってしまう。


 なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に誘ったのか・・・?

 自分たちが「夜市」から出られなくなっていることに気付いたいずみに裕司が語り始める。

 少年の頃、弟と共に迷い込んだ「夜市」で、自分が元の世界に戻るために、幼い弟を売って「野球」の才能を買ったこと、そして今、その時売った弟を買い戻すために「夜市」にやってきたこと。


 なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に連れてきたのか・・・?


 自分が暮らす世界のすぐ地続きに口を開けている異界の不気味さもさることながら、自分とともに異界を行く、すぐそこにいる人の心の量れなさ、正体のわからなさ・・・そのことの方が胡乱な闇を生み怖ろしい。

 裕司の心は「夜市」に飲み込まれてしまったのか・・・。裕司が抱えていた罪の意識、この世で生きる価値を信じられない苦しさ、虚しさ、自分をつなぎとめておけない弱さ・・・。その心には量りきれない闇がある。

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