創業百年を迎える老舗出版社文林館を舞台に、戦中・戦後から高度経済成長期、子どもたちの学びの為の学年誌の出版に携わった人たちの苦闘と、社の「学年誌創刊百年企画チーム」への異動を期に、その学年誌出版の歴史に目を向けることになった女性編集者の姿が令和〜昭和の時代を行き来して描かれる。
女性ファッション誌の編集部から「学年誌創刊百年企画チーム」への意に添わない異動を命じられた市橋明日花。やり場のない不満をくすぶらせていた明日花だが、希望とは違う編集部でも前向きに働く同期の言葉に背を押され、改めて今の仕事と向き合う気持ちを固める。そんなとき太平洋戦争中の入社者名簿に、仕事で忙しい母に代わって自分を慈しみ深く育ててくれた祖母の名前を見つけ・・・。
現代を生きる一人の女性に寄り添っていた視線は、やがて、女性や子供の人権意識がまだ低かった時代に、子どもたちが自ら学び自由に伸びていく助けとなるようにとの想いをこめて学年誌や児童文学の編集、出版に携わった人たちの物語へと導かれていく。
学年誌出版の現場をのみこんでいく戦争の波。苦難の時代の物語だけれども、明瞭な語り口、鮮やかな風景、生き生きとした表情を見せる人物たちに引き込まれて次へ次へとページを捲っていく。理想を掲げ、希望を抱き、情熱をもって、大きな後悔と失敗の中から立ち上がって進み、つながっていく人たちの美しさに溢れた物語であると同時に、職場、家庭、男女間、女性同士、家族、世代間・・・様々な場所に横たわる格差、分断、無理解の有り様もそこには刻みつけられている。
理解したからといって、全ての問題が丸く収まるわけではない。それでも、学ぶこと、考えることを諦めずに続けていった先に見えるかもしれないものをやわらかな言葉で指し示してくれる。わくわくと読むうちに、いつしか固くこわばった大人の心を優しく耕し、気づきの種を蒔いてくれる・・・これは、私たちのための『児童文学』なのかもしれない。
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