『池澤夏樹個人編集 日本文学全集10 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 』
浄瑠璃の訳者に好きな作家の名がずらりと並んでいたので興味をひかれた。特に『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』の三大名作は、歌舞伎や文楽でバラバラと観たことはあるけど、通してストーリーを追ったことはないので、まとめて読む良い機会。
『曽根崎心中』 いとうせいこう訳
いとうせいこう氏、技術的に凝った訳をされているのだと思うけど、それについては私はしっかり読み取ったり、体感したりはできていない・・・と思う。しかし、どういう加減か、歌舞伎で観た時よりも美しい物語だと感じた。(歌舞伎で観たのは一回きりだから、これも大層なことは言えないのだけど)
私は心中ものがどうも苦手で、五年前に歌舞伎で観たときはこんな感想を書いてる。
実社会での失敗や不運や自分自身のダメさが高じていくのにしたがって、ずぶずぶとより深く恋情に絡めとられていく恋人たちを見ていると、何だか引くというか冷えるというか・・・
それが、このたびは、恋にしか生き場所を見つけられなくなった二人の最期の姿は、神話的といってもいいほど美しいなと思えてしまったのだ。お芝居で観るよりも文学として読んだ方が抽象的に捉えられるのかもしれない。文楽で観るとまた印象がかわるのかも。
『女殺油地獄』 桜庭一樹訳
あらためて、凄まじいお話しだなぁ〜と思う。からみあう人の情の濃密さ、与兵衛の内の深い闇。そして、これは桜庭一樹さんが訳出することで現れてきたものなのか・・・遊女小菊の闇も深い。
そして、これも訳者のアイデアによるものなのか・・・与兵衛の特徴的な歩き方。これ一つで与兵衛という男のあやうさ、行く先の不吉さがうっすら昏くゆらめくように立ち昇る。
色友達を左右に従え。いかにもよくいる遊び人の風情だが、まるで油でつるつる滑る床を歩くような、一度見たら忘れられないおかしな歩き方でもって近づいてくる。
人で賑わう明るい土手を、仲間と騒ぎながらやってくる与兵衛の『ゆぅらりゆらり、つるつるつる』としたおかしな歩き方。なんだか、ぞっとした。
『菅原伝授手習鑑』 三浦しをん訳
三浦しをんさんの訳。古文を直訳したような四角い言葉づかいと、場面によっては大きくくだけるセリフや言い回しがガチャついて見えるとこがある。お芝居で見ると、場面によってまったく色合いが違ったりもするので(私には加茂堤と車引の桜丸が同一人物だってのがどうもすんなり飲み込めない)、そういうとこ意識した訳なのかしらん、と思ったりする。
通して読んで改めて思うんだけど、場面によって物語の色合いも登場人物のキャラも随分変わる、こんな振り幅の大きなお話しを、よくぞまぁ、一つのストーリーにまとめ上げたよなぁ(まとまってるのか?) かなり強引な力業だよなぁ。
時平の悪逆ぶりも、道真公の堅い人柄も、三兄弟のファンタスティックさも、斎世親王と刈屋姫の恋する若者っぷりも、「せまじきものは宮仕え」の悲劇も、「最後は怨霊登場かいっ」ていう展開も、何かもうすべてが極端なんだけど、中でも何が凄いって、それまでずっと謹厳実直、志操堅固な姿を見せてきた道真公が怒り心頭、怨念凄まじく雷神に変ずる場面のブッ飛よう。極端だよなぁ。・・・ちょっとひく。
ああ、それから・・・今さら知った、言われてみれば納得の事実。
松王丸、梅王丸、桜丸は姿形がまったく同じな三つ子であること。一卵性だもんなぁ・・・姿はそっくりだよねぇ。歌舞伎の舞台だと桜丸は三人の中ではしなやかで優しげな姿をしているので、そういうもんだと思ってた。そうかぁ、桜丸も梅王や松王みたいに筋肉隆々のゴツい男か。
長くなるので続きは後日・・・


本・書籍 ブログランキングへ
posted by sweet_pea at 22:41|
Comment(0)
|
アンソロジー他
|

|